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最新語と IME: 撥音化について
 

「ん」から広がる書き言葉の感情表現

対象アプリケーション
Microsoft Office IME 2007

「うまく変換されないんだもん」

「登録すりゃいいじゃん」

「仕方が分かんないし、めんどいんだけど」

この「ないんだもん」、「いいじゃん」、「分かんない」、「めんどいんだけど」、よく耳にしますが、それぞれ「ないのだもの」、「いいじゃない」、「分からない」、「めんどいのだけど」の一部が「ん」に置き換わった表現となっていることにお気づきでしょうか。また、「ん」に変化することによって、よりカジュアルな文体になっていると思いませんか ?

皆様からいただいた誤変換報告の中にも、上にあげた「めんどいんだけど」のほかに「してもらったもん (してもらったもの)」、「分からんのです (分からないのです)」、「すんません (すみません)」という例がありました。やはりカジュアルな表現になっていますね。

ここに共通して現れている「ん」は、「撥音」または「はねる音」とも呼ばれますが、今回はこの「ん」の周辺を探ってみたいと思います。

音便の話

撥音化のいろいろ

書き言葉の変異

Microsoft Office IME 2007で正しく変換できるようになった例文


音便の話

「撥音」と聞いてまず思い浮かぶのは国語の古典で習った「音便」の「撥音化」ではないでしょうか ?

「音便」は「発音の便宜上の変化」で、母音の脱落と子音転化が行われることをいい、たとえば「飛びて」が「飛んで」に変化するのを撥音化といいます。ほかにも「書きて」が「書いて」 (イ音便) 、「暑くて」が「暑うて」 (ウ音便) 、「買いて」が「買って」 (促音便) と、全部で四種類の音便形があります。

そもそも音便化は平安時代に始まったといわれますが、音便形は非音便形と共存し、日常的な話し言葉、つまりカジュアルな文体の指標としても機能していたというところが特徴といえます。(注1)

ですからその変化は「発音の便宜上」というにとどまらず、全体で一つの語形として機能するような音の変化と言ってよいでしょう。

また、音便の取り込まれ方には地域差があり、室町時代、京都地方で「買うて」 (ウ音便) 、関東地方では「買って」 (促音便) とするような方言的な違いがありました。

現代語では、動詞では「買うて」のようなウ音便が文語、あるいは方言で使われる以外は、「買って」というような促音便を使うほうが一般的になっています。形容詞もイ音便が連体形、終止形の語形として現在の活用となり、ウ音便は「お早う」や「ございます」が後接した「お早うございます」で使われるだけとなりました。

(注1) 現在では、音便形と対立を作っていた非音便形は使われなくなったので、音便形の持つカジュアルな文体という特徴は失われています。

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撥音化のいろいろ

このほか撥音化には以下のような変化も含める場合もあります。

撥音パターン 例文
「の」、「もの」、「ない」からの転化 思うんです (思うのです)
そこんところ/そこんとこ (そこのところ)
僕んち (僕のうち)
困ったもんだ (困ったものだ)
よそもん (よそもの)
分からん (分からない)
否定の「ない」に先行するラ行音 分かんない (分からない)
いらんない (いられない)
足んない (足りない)
その他 来んの (来るの)
そんで (それで)
あんた (あなた)
分かってんじゃん (分かっているのじゃない)

また、「みんな (みな)」、「あんまり (あまり)」、「おんなじ (おなじ)」のように「ナ・マ行音 + 濁音」の前に撥音が入る撥音挿入という撥音化の現象もみられます。

さらに、東京方言の「わかんない」が西日本にも入り込んでいるという変化も指摘されています。また、「いいじゃん」などの「じゃん」は、東海地方で使われていた方言が入り込んだとする見方もあります。これらの言葉が、若者を中心に都市部でも使用され、さらにフォーマルな場面ではあまり使用されないことから「新方言」という新しい変化としてとらえる人もいます。

「すんません」なども関西方言「すんまへん」の影響を受けたとも考えられますが、佐渡、福井、広島地方の方言としても存在していることからすると、「新方言」といえるのかもしれません。

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書き言葉の変異

ひところは「標準語」という言葉が方言使用者にコンプレックスを生んだこともありましたが、共通語の普及で、方言と共通語をうまく使い分ける人が増え、方言はその存在価値が再認識されようとしています。

また、感情の伝達などの点から見れば、普段話している言葉、仲間意識の強いカジュアルな言葉の方が、今伝えたい気持ちや感情を表現しやすいのではないでしょうか ? それは、話し言葉に限らず、書き言葉にも同じことがいえるでしょう。

メールやチャットなどを使ったインタラクティブなやりとりの中では、撥音化された言葉や「新方言」に限らず、カジュアルな言葉や表現が多く使われる傾向にあります。

そのようなインタラクティブなやりとりの中では、「来んの ? 」で「ドウスンノヨォー」とか「キナヨ」のような勧誘の意味がこめられたり、「知んない」で「キョーミモナイ」という無関心の意味が込められたりするかもしれません。一方、「来ますか ? 」、「知りません」などの表現は、場合によっては堅苦しく思われるかもしれません。

どうやら、「ん」という一つの文字の使い方で、こんなにたくさんの感情を表現する力があるようです。

このように、撥音化された言葉や方言は、いわば普段着の話し言葉としての重要な機能を持っています。今すぐ伝えたい気持ちが、誤変換によって失われてしまったりすることのないように、また「使ってらんない」と言われることのないように、Microsoft IME はこうした言葉にも積極的に取り組んでおります。

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Microsoft Office IME 2007 で正しく変換できるようになった例文

Office IME 2007 の変換結果 IME 2003 の変換結果
私んとこ来たんだって ? 綿新と古希短だって ?
見てらんなかったよ 見て欄なかったよ
だから言ったんじゃん だからいったんジャン
お釣り足んないってよ おつり短内ってよ
何してたん ? 何して短 ?
おかんとこ行っててんけど 悪寒と濃いって点けど
邪魔くさいんやけど 邪魔区サインやけど

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参考文献

  • 日本語の歴史 - 青信号はなぜアオなのか - 、小松英雄、笠間書院
  • 新しい日本語 - 《新方言》の分布と変化 - 、井上史雄、明治書院
  • 日本文法事典、北原保雄・他、有精堂
  • 岩波 日本語使い方考え方辞典、北原保雄、岩波書店
  • 日本語をみつめた文法・現代語、鈴木一彦、東宛社
  • 増補 江戸語東京語の研究、村松明、東京堂出版
  • 日本語教育事典、日本語教育学会編、大修館書店

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